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●データ引用:荻田 健,『講座:微生物と化学(3)/微生物に医薬を探る』,化学と教育,2000年11月号,p.740

◆ 微生物に医薬を探る/ペニシリン ◆
(2000年12月24日掲載)
 自然をお手本にして進歩してきた化学を語る上で,微生物が産出する天然化合物の話は欠かせないものの一つです。中でも多数見出されてきた医薬の役割は新薬が合成されるようになった現在でも失われることはなく,さらに未知化合物の探索も活発に継続されています。
 今回取り上げた解説により,1928年(岩波・理化学辞典では1929年)にフレミングが青カビから発見した抗生物質ペニシリンに端を発して約70年になる医薬探索の歩みを,わかりやすく概観できます。
(詳しくは上記雑誌の解説を参考にしてください)

ペニシリン骨格(上左;下はその一例,ペニシリンG)とD-アラニル-D-アラニンの構造(上右;下はR'がHの場合)の重ね合わせ。上図の緑色部分が類似している。
(上の構造式は原報図4を若干変えて作成;-COOを-COOHとして表記)

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◎原報より:『図4のようにペニシリンは細菌の細胞膜のD -ala-D -alaを模することにより抗菌性を発揮するが,人間の知恵でD -ala-D -alaの構造からペニシリン骨格がデザインできたであろうか。』

《抗生物質についての本ページ作者の補足》  抗生物質とは微生物によって産出されるもので,もともとは他細胞の発育を阻止する物質とされたが,現在は抗菌,抗ウィルス,酵素阻害,制がんなどの作用をもつ物質を幅広くさすようになった。現代の医学で抗生物質の果たしている役割はきわめて大きい。
 最初に発見された抗生物質は,上記のようにフレミングが青カビから見つけたペニシリンで,ブドウ球菌の培地に青カビが入り込んでその周囲のブドウ球菌が溶けていることから気づいたものである。なお,1957年には梅澤濱夫がカナマイシンを発見している。
 抗生物質は一般に特定の菌にだけ作用するという選択毒性をもち,たとえばペニシリンは動物には無く細菌だけがもつ細胞壁に作用してその合成を阻害して死滅させるものである。他には細菌の細胞のタンパク質や核酸の合成を阻害したり,細胞膜質の機能を障害するなどの作用によるものがある。
 ところが,抗生物質を使っているうちに,それに耐性をもつ菌が現れてくることがわかった。これを耐性菌(*)というが,さらに別な抗生物質を見出したり開発するなどして対応していくことが必要となっている。
 現在は微生物由来のものと人工的に合成されたものを含めて100種類以上の抗生物質があるが,化学構造的にはβ-ラクタム系(ペニシリン類等),アミノグリコシド系(ストレプトマイシン,カナマイシン等)など10数種類に分類できる。

* 医療関係のニュースに時々登場するMRSAはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の略で,抗生物質のメチシリン(ペニシリン系に属する)に対する耐性ができたものである。最近,医療施設内で抵抗力の下がっている患者や高齢者がさまざまな感染症にかかってしまう院内感染が問題になっているが,MRSAに感染して死亡した例もある。バンコマイシン耐性菌(VRE)の出現も脅威となっている。


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