●NIFTY SERVE「化学の広場」FCHEMT/mes/12【環境】会議室書き込みから ------------------------------------------------------------- 00972/00972 GEH05313 シェーマ RE:CNPと法規制 (12) 97/07/27 14:18 00965へのコメント 三太郎さん、久勝さん、みなさん、こんにちは。CNPで話題になった新潟に 住んでいるシェーマです。環境関連の講義で、いろいろな環境問題のキーワード についてのアンケートを毎年とっているのですが、CNPに知っている学生が年 々減ってきています。環境問題は“地域性”も重要ですね。アンケート結果のグ ラフ画像を自作ページに張り出しました。   http://www2d.meshnet.or.jp/~chem_env/env/term_q97.gif  で、三太郎さんの、#00965、 >(ところで、CNPって何の略称でしょう?化学式が解らないと何となく落ち着 >かない感じです) ですが、CNPは、クロロニトロフェンの略です。旧FCHEM【教育】の書き込み (#02038,94/04/16)も少し修正して(分子モデル)、紹介します。当時は【有 機】の方々からも、CNPアミノ体(以下のニトロ基がニトロソになってアミノ 基になる)などについてのコメントを戴いたりしました。 > 新潟県は農薬CNPですっかり有名になりましたが、先日も朝日新聞の新潟版( >1994.3.24付け)にCNPと代替え除草剤ビフェノックスやすでに製造中止のNIP >の構造類似性(何れもジフェニルエーテル系)を示すために、3つの構造式が出て >ました。例えばCNPは、 > >          Cl >          / >       / ̄ ̄\   / ̄ ̄\   >   Cl ―< ○  >―O―<  ○  >―NO2 >       \__/   \__/ >          \ >          Cl >  (中略) > CNPと胆嚢ガンの関係の話しは1992年秋に新潟で日本化学会があり(その >時なぜか地元だということで発表しろという話しがあったのが、教育会員になった >そもそもの発端です)、あちこち発表を聞き回った時、新潟大学の山本先生の発表 >を聞いた時からの因縁(?)です。疫学という手法から解きほぐしてくれ、面白か >ったので講義でも取り上げていたのですが、今回CNP使用中止に至ったのは市民 >の力であり、環境問題における「専門家(教育者)」の役割を反省させられました。            (注:上記教育会員とは日本化学会教育会員のこと)  また、CNPについては少し古いですが、以下の雑誌でも詳しく取り上げられ ています。   「水情報」1994年(14巻)3号     特集:CNP       <巻頭言>農業排水を注目しよう       高橋敬雄       水田除草剤CNPの環境への影響       石田紀郎       <インタビュー>CNPと胆嚢がんの疫学調査            −山本正治さんに聞く−      《以下略》  ※バックナンバーも取り寄せ可能だと思います。    発行人   高橋敬雄   〒950-21 新潟市五十嵐3の町9190−68        TEL&FAX:025−262−7030        郵便振替:00630−4−25302        銀行口座:第四銀行内野支店 普通1449944        口座名:月刊水情報(郵便局,銀行とも)    定価 1部500円(送料別)  山本先生へのインタビューは、中西準子先生(前・発行人)と高橋敬雄先生 (現・発行人)のお二人でなさっています。CNPが使われなくなって、新潟で 女性の胆嚢ガンが減るかどうかも大きな鍵という内容などが出ています。  また、石田先生の解説の、 > 農薬は旋用された圃場の環境によって、その動態は異なることは当然のことで >あり、一つの農薬の環境への影響を考える際、農業環境の変化によって影響の発 >生形態も変化すると思われ、農薬の使用量が減少してもその影響が増大する可能 >性も十分ありうる。 という結語は非常に重要だと思いました。  また、久勝さんの、#00917 は大変参考になりました。その中で、 >現在の登録制度では、魚への蓄積性試験は必須ではありません。ただし、物理化学的 >性質(物化性)の一項目である、水/オクタノール分配係数が3をかなり上回る場合は、 >魚への蓄積性が懸念されるので、農林水産省より、魚体蓄積性試験を要求される場合が >あるようです。 の、水/オクタノール分配係数について、蛇足させて下さい。この係数は、生物 濃縮性の推定や定量的構造活性相関に用いられますが、化合物の構造(炭素数と 置換基の種類と数)からその物性を推定する「有機概念図」という手法があり、 これにより同係数の推算も可能です。N88BASIC プログラムは公開済みなで、現 在、Excel およびホームページ上でも計算できるように作業中で、近日中に公開 します(ものはできているのですが、マニュアルがまだ)。  以下で若干の参照が可能です(plug-in“Formula One/NET”が必要)。   http://www2d.meshnet.or.jp/~chem_env/sheet/e_hormone.html  「有機概念図」プログラムが縁で、化審法の技術部会にいらっしゃたことのあ る先生と知り合うことができたのですが、その先生は水/オクタノール分配係数 と同程度に有機概念図を評価していました。有機塩素系化合物(農薬も含む)の 生物濃縮性のデータなども少し戴いたりしました。  それから、昨年新潟であった「第22回環境トキシロジーシンポジウム」でも、 農薬関係の発表がいくつかありました。水/オクタノール分配係数関連では、農 薬の原料・中間体でもあるクロロフェノール類についての以下の発表がありまし た。   「活性汚泥および肝ミトコンドリアに対するクロロフェノール類の    毒性評価と構造活性相関」,       (東北薬大)横田勝司,井上達明,三原祐一  以上、未発表ツールの紹介を含め、雑多な引用ばかりで失礼しました。 1997/07/27 本間善夫(GEH05313[nifty]/honma@muf.biglobe.ne.jp) ------------------------------------------------------------- 01102/01103 GEH05313 シェーマ CNPと環境情報 (12) 97/08/09 11:20 01084へのコメント  シェーマ@ご当地新潟 です。あえて長文引用しますので、注意してくださっ ているチビマルさんへのレスにさせて戴きます (^^;。  みなさんのお陰でCNPについて、だいぶいろいろわかってきました。以前に 書いた“環境情報学”という観点からも、今回の議論は、興味ある事例だと思っ ています。ただ、1つの化合物をとっても、素人には(かなりの専門家でも)な かなか納得のゆく結論が見えてこない、という点も、見逃せないと感じています。 これが環境問題の難しさでもあるのでしょう。  文献も、#01044 のトシ坊さん、#01049 のたてきさんが上げて下さっています が、なかなか読めないのがあって厳しいですね。#01066 等のKjさんの引用も 助かっています。  なお、#01047 の三太郎さん「水田の農薬の散布後の挙動は?」については、 私の #00972 で紹介した、 >  「水情報」1994年(14巻)3号 >    特集:CNP >      <巻頭言>農業排水を注目しよう       高橋敬雄 >      水田除草剤CNPの環境への影響       石田紀郎 >      <インタビュー>CNPと胆嚢がんの疫学調査 >           −山本正治さんに聞く− の、石田さんの解説も参考になると思います。なお、上記の<インタビュー> (他の方も文献に上げていますが)は、3人の話し合いですので、専門家以外で も問題点が少し見えやすいような気がします(もちろん、専門用語のやりとりで 理解不能な部分もありますが)。  また、農薬の動態については、それこそCNPを例にした、 ●中西準子,「水の環境戦略」,岩波新書(1994)   第3章/四 水道水の危険性の大きさ (2)農薬など    除草剤流失モデル/CNPの危険度/CNPの毒性についての疑惑/    オキサジアゾンの発がん性/地下水の危険度/鉛と砒素/    他には何があるか?     (ただし、今後のCNPの毒性の議論を期待している時点での発行) も参考になります。この中では、農薬についてのメーカーのデータがなかなか見 ることができない(農水省に登録する際提出したデータを、メーカーが公表する ことになっているが強制力はなく、審査過程等も公表されない)という、それこ そ“環境情報学”上問題である点が指摘されています(上記「水情報」でも言及)。  また、いくつかの文献で、CNP等への副生成物としてのダイオキシン混入問 題についても触れられていますが(例えば、「水情報」石田さんによれば、原体 量でCNP約 5,000トンを使用した宮城県では、単純計算でダイオキシンが10 トン散布されたことに相当)、ここでは、   環境庁(EICネット)環境情報検索    http://www.eic.or.jp/eic/db/all.html を使って検索したものから引用します。 ●環境庁;“CNP”での検索 http://www.eic.or.jp/cgi-bin/print.cgi?id=30079 >ダイオキシン排出抑制対策検討会報告(要約) >     《中 略》 >               平成9年5月                >          ダイオキシン排出抑制対策検討会 >     《中 略》 > ┌――― 目  次――――――――――┐                   > |                 |                   > | 1.はじめに          |                   > |                 |                   > | 2.環境中のダイオキシン濃度  |                   > |                 |                   > | 3.発生源と排出実態      |                   > |                 |                   > | 4.排出抑制技術        |                   > |                 |                   > | 5.測定・分析方法       |                   > |                 |                   > | 6.排出抑制の推進方策     |                   > |                 |                   > └―――――――――――――――――┘                  >      《中 略》 >2.環境中のダイオキシン濃度 >     《中 略》 >(2) 土 壌 > >○福岡県下の公園、道路端、焼却施設周辺及び山地において採取した土壌中のダイオキシ >ン類濃度の調査では、{1}土壌中のダイオキシンの濃度レベルは、total-PCDDが0.08〜22 >ng/g、total-PCDFが 0.01〜2.5 ng/gと、PCDDが PCDFに比べて高い値を示し、先進諸外国 >と比べ同程度か若干高いレベルである、{2}土壌中のダイオキ シン類の異性体パターン >は廃棄物焼却炉からの排出物中のパターンと類似しており、土壌中のダイオキシン類の大 >部分が燃焼生成物に起因すると考えられる、{3}都市、工業都市、農村及び山村等地域に >よる明確な差異は認められなかったとしている。 > >○水田土壌のダイオキシン類濃度については、1,3,6,8-T4CDD、1,3,7,9-T4CDD及び > O8CDDが高い値で検出されており、過去に水田除草剤として使用された PCP及びCNPに >よるものと推察されていると報告。 >     《中 略》 >3 発生源と排出実態 >     《中 略》 >(3) 農薬製造工程 > >○これまで使用された農薬のうち、ダイオキシン類を含むことが明らかになっているもの >は、2,4,5-T、2,4,5-TP、2,4-PA、PCP、CNP、NIP、クロメトキシニルとPCNBである。我が >国の水田土壌には、除草剤 PCP(ペンタクロロフェノール)とCNP(クロロニトロフェン >)に起因するダイオキシン類があると言われている。 >農薬としての PCPは、過去において水田の初期除草剤などとして全国的に使用されてきた >が、魚介類に対する毒性回避のため水田への使用量は急減し、1986年以降出荷はなくなっ >ている。 >PCPに代わってジフェニルエーテル系の農薬 CNPが使用されてきた。この CNPも現在農薬 >登録はなく、出荷もなくなっており、実質的にCNPの使用はない。 >PCPは農薬以外にも使用の用途があり、過去においては木材防腐剤として使用された。農 >薬と同様に、PCPの木材防腐剤としての使用は自主規制により現在は使用されていない。 農薬・防腐剤で、規制以前に「自主規制」というのがしばしばありそうなのが、 前述の“メーカーのデータがなかなか見ることができない”ことと考え合わせる と、気になります(杞憂ならいいのですが)。  立場の違いにより、引用するデータに違いがある点があるのはやむを得ない点 もあるのかも知れませんが(肝心の当事者には納得がいかないでしょうが)、見 えないデータがあるというのは、得心がいきません。そのことが誤解に基づいた 情報の広がりにつながる場合も、少なくないのかも知れません。  みなさんの書き込みをいろいろ読ませて戴きながら、左巻さんの、#01074、 > ぼくは、ずっと前に述べましたが、いまの科学に歴史的限界があり、科学にたずさわ >る者はその限界性をいつも意識して謙虚になるべきだと言いたいのです。 に共感しています。食品添加物の話題でも、メムさんが(#00948)、 >科学者は自然に対してもっと謙虚であらねばならないと思う今日この頃です。 と書いていらっしゃいましたね。  この“謙虚”さということに関して、最後にまた長くなりますが、解剖学者・ 養老孟司さんの本から、引用したいと思います(このような場で引用して、著者 には申し訳ありません)。 ●養老孟司,「臨床哲学」,哲学書房(1997),p.85 >老化と因果関係 > 老化の「原因」を考える説を見ていくと、要するに、故障が起こりそうなとこ >ろには、、古くなったら、いずれ故障が起こる、それを列記しているように見え >る。すでに述べたように、根本的には、老化は因果関係で説明できる現象ではな >い。ただ、現代の科学が、すべては因果関係だという、フリをする科学だから、 >こういう表現になるのだろう。しかし、それは説明上の便宜に過ぎない。 > 妊娠のある特定の時期に、母親がサリドマイドをのむ。そうすると、胎児に特 >定の奇形が生じることがある。では、サリドマイドは、奇形の「原因」か。ふつ >うの人は、そうだと言うであろう。これは表現の問題である。しかし、厳密に言 >えば、この表現は間違っている。 > 「原因」という以上、因果関係が前提になっている。因果関係なら、サリドマ >イドという要因によって、なぜ奇形という結果が生じるか、それを「因果関係と >して」、きちんと説明する必要がある。サリドマイド裁判のときに、被告側つま >り薬品会社は、この理屈を採用した。サリドマイドと奇形、その間に、「科学的 >因果関係は証明されていない」と主張したのである。 > この主張は、ある意味では正しい。なぜなら、正常な手、それがどのようにし >て、発生過程で生じるのか、まだだれも知らないのである。それなら、サリドマ >イドで、べつな形の手ができる。そんな理屈は、さらにわからない。「どういう >原因で、指が五本できるのか」。それを説明できる人があるだろうか。五本の指 >は、因果関係で生じたわけではない。 > 妊娠の特定の時期に、母親がサリドマイドをのむ。そうすると、子供に奇形が >生じる確率が高い。それが正しい認識である。それ以上のことは、よくわかって >いないのである。厳密に言えば、風が吹けば、桶屋が儲かる、それと大して変わ >らない。もちろん、サリドマイドは化学物質である。それなら、化学のことばで、 >もう少し詳しく説明が可能だろう。もちろん、それは可能であろう。しかし、い >くら化学のことばに翻訳しても、サリドマイドと手の変形の間には、つねに論理 >的な矛盾が生じてしまう。なぜなら、サリドマイドは、単なる一個の化学物質だ >が、胎児というのは、おびただしい種類の化学物質が、極端に膨大な数で集合し >た、複雑なシステムだからである。しかも、胎児という「化学物質の集合したシ >ステム」は、きわめて複雑な変化を生じている。そこに、たった一つの化学物質 >を放り込んだときの因果関係、そんなものは、わかるわけがないのである。 > 老化もまた同じ。老化とは、すでに述べたように、発生と同じ過程の延長であ >る。それなら、両者を通底する法則は、同じはずである。その法則がどうかと言 >ったら、じつは発生過程の解析ほど、面倒なものはない。それなら、老化の解析 >も、同様に面倒なはずではないか。それが論理的にも実際的にも、いかに困難な >ものか、分子の種類を数えるという、単純な計算からでも、それがわかる。 > 因果関係という見方と、発生や老化という実際の現象、その間の食い違いは、 >典型的な現代思想の問題である。科学はそこに、一般的な言説をふりまく。しか >し、人々が知りたがるのは、じつは自分の問題としての老化である。しかし、自 >分の問題は、そうした意味では言説になりはしない。それは、自分の生き方その >ものだからである。言説は、それを伝える道具に過ぎない。  無論、科学・技術の進歩のお陰で、多くの直せなかった病気も直せるようにな ったことも踏まえた上で(こうしている間にも、多くの研究者が問題解決のため にエネルギーを注いでいる!)、当事者(弱い立場にある場合が多い)の視点と “謙虚”さを忘れないようできたら、と思っています。  そのためにも、“環境情報”の流通は不可欠だと考えています。 1997/08/08 本間善夫(GEH05313[nifty]/honma@muf.biglobe.ne.jp) ------------------------------------------------------------- 01259/01259 ******** XX RE^3:CNPと法規制 (12) 97/09/11 01:21 01112へのコメント   《 中 略 》 参考になるかどうかはわかりませんが、ちょっと年表を書いておきます。 1991 山本らの論文(日本医事新報3531) 1993 山本論文 (医学の歩み166) .11 厚生省「水道原水保全事業促進法案」要綱をまとめる 生活環境審議会、水道原水保全で答申(厚生省の法案要綱に沿う内容) 同法案の国会提出に環境庁・国土庁が反対 .12.6 (環境庁)中央環境審議会「水道利用に配慮した公共水域等の水質保全 対策のあり方」答申 1994 中西・山本ら(水情報14) .1 厚生省「水道原水水質保全事業の促進に関する法律案」および 環境庁「水道水源水域の水質保全に関する特別措置法案」国会提出 .2 上記2法案成立 .3.4 厚生省水道水源法施行 .3.7 厚生省、CNP使用中止へ−摂取許容量を白紙に 環境庁、CNP登録基準値削除 .3.8 CNPの暫定水質管理指針値を[0.0001mg/L以下]に設定し通知 (衛水第56号) .5.10 環境庁水道水源法施行 1996 山口論文(日本農薬学会誌21)   《 以下略 》 -------------------------------------------------------------